尾崎秀樹『対談 海の人物史』(TBSブリタニカ、1979年)


  台南市内のある大学図書館の日本語書籍棚を何気なく眺めていたら目に入ったので手に取った。帰りの電車で暇つぶしに眺めようかという程度の軽い気持ちだったが、内容が結構充実しているので、集中して読みふけってしまった。


  尾崎秀樹が「海の人物」というテーマで作家たちと交わした対談15篇が収録されている。四十年以上前の本だから、細部では研究的に時代遅れになっているところもあるのかもしれないが、それぞれの作家たちが示す着眼点が鋭いし、エピソード的なことを拾い読みするだけでも面白い。対談者及びテーマは下記の通りである。


井上靖「海上の道──遣唐使と西域」
永井路子「伊勢平氏──海から築いたその栄華」
陳舜臣「倭寇とその末裔」
榊山潤「九鬼嘉隆──戦国に生きた水軍総帥」
城山三郎「呂宋助左衛門──開かれた精神とその気概」
遠藤周作「大航海時代の海外渡航者」
邦光史郎「紀伊国屋文左衛門──その虚構と実像」
綱淵謙錠「高田屋嘉兵衛──北辺の危機の調停役」
南條範夫「銭屋五兵衛──悲運の豪商」
山田宗睦「漂流民の思想」
江藤淳「勝海舟──海を理解した先覚者」
田岡典夫「坂本龍馬──卓抜な維新変革の構想」
小島直記「岩崎弥太郎──近代海運の創始者」
杉森久英「広瀬武夫──海に生きる詩人」
豊田穣「近代の提督たち」


  私自身は最近、台湾史を一つの完結した島の歴史としてとらえるのではなく、むしろ東アジア海洋世界における海を媒介とした多角的交流の側面の方に興味があり、そうした問題関心からも本書は面白かった。とりわけ近世、16~17世紀の海洋交流史という点では、陳舜臣「倭寇とその末裔」、城山三郎「呂宋助左衛門──開かれた精神とその気概」、遠藤周作「大航海時代の海外渡航者」、山田宗睦「漂流民の思想」といったあたりが関わってくる。


  編者の尾崎秀樹はそもそも台湾の生まれである。本書のあとがきでは、台湾生まれという生い立ちから海の世界へロマンを感じるようになったことが記されている。父・尾崎秀眞から聞いた子安貝の話。また、台北の自宅の庭にあった「詠沂園」という石碑に言及し、それは1895年の日本の台湾領有時、台北にすでにあった風呂屋の看板であったこと、その風呂屋は寧波から台湾へ伝来したもので、その寧波の風呂の習慣自体が日本由来であったというエピソードは初めて知った。