清水麗『台湾外交の形成──日華断交と中華民国からの転換』(名古屋大学出版会、2019年)

  本書では戦後においていくつかの局面の変化を経ながら「現状維持」が継続されてきたことに着目しながら台湾(中華民国)の外交が分析されている。本書の特色は、「一つの中国」原則に則った思考・行動様式に基づく「中華民国外交」から、「台湾」としての国際的認知を求める「台湾外交」への移り変わりとして戦後台湾(中華民国)外交を把握しているところにある。

  戦後台湾(中華民国)外交について本書では次の三つの時期に分けて論じられている。第一期が1949年の台湾移転から1971年の国連脱退までで、「中華民国外交」の時期にあたる。「中華民国外交」は渡台以前の外交との継続性が認められる。第二期は国連脱退から1980年代後半までで、蒋経国の指導の下で行われていた実質外交の時期である。台湾内外の様々な拘束要因に左右されつつ生き残りをかけた実務外交が展開されたが、「中華民国外交」の原則も放棄されたわけではない。この時期の外交は、「中華民国外交」がさらに継続されるか、もしくは「台湾外交」へ転換されるか、まだ不確定であったと指摘される。第三期は1980年代後半に民主化が始まり、李登輝が登場してから現在に至るまでの「台湾外交」の時期にあたる。それぞれの段階における論点については目次を写しておく。

序章 「現状維持」を生み出すもの
第一章 台湾の中華民国外交の特徴
第二章 1950年代の米台関係と「現状維持」をめぐるジレンマ
第三章 1961年の中国代表権問題をめぐる米台関係
第四章 政経分離をめぐる日中台関係の展開
第五章 1960年代の日華関係における外交と宣伝工作
第六章 中華民国の国連脱退とその衝撃
第七章 日華断交のとき 1972年
第八章 外交関係なき「外交」交渉
第九章 中華民国外交から台湾外交へ
終章 「現状維持」の再生産と台湾外交の形成

  日台関係に関して言うと、戦後台湾外交において「日華」と「日台」との二重性はよく指摘される。前者の日華議員懇談会のように蒋介石を象徴的存在として結び付いた人脈から、後者において日本語を話せる本省人などが駐日代表として派遣されてチャネルを再構築した人脈、言い換えると李登輝を象徴的存在として結び付いた日台人脈への転換という論点に興味を持った。