胎中千鶴『あなたとともに知る台湾──近現代の歴史と社会』(清水書院、2019年)

  2011年3月11日に起こった東日本大震災の後、世界中から義捐金が集まったが、その中でも台湾からの拠出額が突出していたことが注目された。「親日台湾」という言説は以前からあったが、311以降は一般レベルでもかなり広まったような印象を受ける。すぐお隣の国だからお互いに気軽に観光旅行に行けるし、最近では修学旅行の行き先として台湾を選ぶ学校が増えつつあるとも聞く。

  身近な隣国・台湾──しかし、一般の日本人の間で、台湾のことがどれほど知られているのかと言うと、少々心もとない(極端な話、台湾をタイと勘違いする人に出くわしたことすらある)。私自身は台湾に暮らし、台湾人の友人もいるし、台湾史を専門的に学んだこともある。むしろそうであるがゆえに、事情を知らない日本人と話していて台湾の話題が出たとき、どのレベルから説明したらいいのか戸惑ってしまう。手っ取り早く台湾について知ってもらうとしたら、どんな本を薦めたらいいのか──そんなふうに頭を抱えてしまうこともあったが、本書が刊行されて助かったような気持ちである。

  台湾と日本とは確かに友人関係にある。でも、相手のプロフィールを知らなければ、本当に友人と言えるのか? 親友が抱えている様々な葛藤にも思いを凝らして、ようやく上っ面ではない関係を取り結ぶことができる。本書はそんな感じに、お隣の「友だち」との出会い(日本統治時代)、それぞれ引っ越した後の歩み(戦後の台湾社会)、そして今の友人関係を平易に説き明かしてくれる。100頁ほどのコンパクトな分量だが、語るべきポイントは過不足なく網羅されており、格好な台湾入門書である。

  台湾へ行く前に読んでも良いし、あるいは旅行でも短期留学でも、台湾へ実際に行ってみると、素朴に様々な疑問が湧いてくるだろう。例えば、中国と台湾はどう違うのか? そもそも、なぜ「大使館」がないのか? 漢人だけでなく原住民族もいるし、言語的に複雑そうだなあ、とか。「親日」とは聞くけど、どうも複雑な背景がありそうだなあ、とか。そうした素朴な疑問を感じたときに本書を一読してみると、歴史的な背景から得心がゆくはずだ。