『台湾、Y字路さがし。/在台灣尋找Y字路』(玉山社、2017年)の著者栖来ひかりさんによる「台北Y字路歴史散歩トーク」が2019年1月26日、「太台本屋」の主催で下北沢Bookshop Travellerにて開催されたので聴きに行ってきた。

  Y字路に最初に注目していたのは横尾忠則だが、著者は台北の街中でまさにこのY字路を見かけてその魅力に取りつかれ、台湾Y字路探しの日々が始まったという。本書はY字路の写真を撮り、過去の地図と照らし合わせてそのY字路が出来上がった経緯を探り出す。さらにその土地の来歴をも調べ、Y字路を切り口としてそれぞれの土地に積み重ねられてきた歴史の地層をも掘り起こしていく。地図好き、地形好き、歴史好き、そして街歩き好き、各様に楽しめる一冊である。

  近代的な都市計画では、碁盤目状にせよ円形にせよ、一定の規則性に従って設計されるのが普通である。Y字路のような不規則な形態には何らかの理由があるはずだ。栖来さんはトークの中で、1.高低差、2.水路、鉄道、古道など、3.都市計画(人為的なデザインとして)に分けて説明してくれたが、私のような歴史好きからすると2.のカテゴリーに興味が引かれる。例えば、地図の中でなだらかなカーブが見えるとかつて鉄道路線があったことが分かる、と説明されていたが、私自身も地図を見ながら過去の歴史を想像する時、全く同じ見方をしていたので、話を聞きながら大きくうなずいた。

  近代的都市設計が行われる前、それこそ清代以前の不規則な古い街並みの一部がY字路としてそのまま残っているのかもしれない。水路が埋め立てられたり、線路が撤去されたりした後に新たな道路として造成されると、他の道路と交差していた部分はY字路になりやすい。日本時代や戦後の新しい都市計画で大きな幹線道路が強引に作られると、古い街並みの中で分断された部分もY字路として露わになる。地図を見てそうした来歴を想像し、現場を見て確認すれば、これも立派な歴史研究である。Y字路探しは歴史を見つめる感性を養う上でも格好な訓練になる。

  本書で紹介されているのは45か所であるが、その大半は台北に集中している。私の住んでいる台南も含めて、他にも魅力的なY字路があるはずだから、そうしたものも集めて続編を出してほしいと思う。それから、今回のトークでY字路の形成要因を整理して説明されているのを聞きながら思ったのだが、それぞれのY字路の形成要因や特徴に応じて分類名をつけてみるのも一つの方法ではないか。例えば、水路型とか、鉄道型とか。路上観察学会などはよく分類を手法として使っていた。もっとも、分類してしまうと味わいがなくなってしまうかもしれないし、何とも言えないが。

  本書は台湾の出版社から刊行されたが、日本語・中国語併記なので中国語が分からなくても問題ないし、今年には日本語版の刊行も予定されているという。