「22K」という言い方を台湾でよく見聞きするので、一体何なのかと思い、王健全《如何擺脫22K的夢魘?》(台北市:三民書局,2014年)という本を手に取った。若者に向けて、就職を勝ち取る心構えを説くという感じの本だが、その前提として現在の台湾をめぐる経済的背景が簡潔に説明されている。著者の王健全は政府系シンクタンクである中華経済研究院副院長。

  2008年のリーマン・ショックは台湾の企業活動にも波及し、新卒者の就職市場にも影響していた。そうした中、就職市場が委縮しないよう台湾政府は「大專畢業生至企業職場實習方案」(大学等卒業生の企業職場での実習計画)を推進する。「22K」とはつまり、2万2千元(台湾ドル)を指すが、流行語となったのはこの政府計画が「22Kプラン」と呼ばれたことに由来する。

  では、「22Kプラン」とは何かと言うと、各大学・専科學校が個別に企業と提携し、卒業生を提携企業に実習生として一年間受け入れてもらう。政府は特別予算を組み、毎月の実習生給与や保険費用に対して補助金を当該企業へ支給する。その給与相当の補助額が2万2千元だったことから、「22Kプラン」と呼ばれた。実際にこのプランを利用して、2万2千元以上の給与で待遇してあげたり、実習生を正規職員へ登用したりした優良企業もあったが、他方で、コスト削減を目的に補助金目当てでこのプランを申請した企業も多かった。主に後者の場合から、2万2千元を大卒者の初任給のトレンドとみなす誤解が広まってしまったという。「22K」=2万2千元は低水準の給与額の象徴となり、学生たちの間では初任給で「22K」を超えられるかどうかが一つの基準になった(本書24-27頁を参照)。

  もちろん、中小企業側にも言い分があって、台湾の企業の9割以上は中小企業で占められているが、もともと資本や規模に限りがある。新入社員を雇っても、まず職業訓練から始めなければならないが、給料を払いながら訓練を施した上に、優秀な社員は一定の経験を積んだ後、大企業に転職してしまう。これでは教育コストに見合わないから、高井給与を支払うわけにはいかない、と(本書34-35頁)。

  台湾では若者の失業率は平均より3倍にもなるらしいが、その要因として下記の5つが挙げられている(本書、75-76頁)。第一に、卒業後、仕事が見つかる前一定の待機時間が必要だし、またすぐ転職する率も高い。第二に、退職年齢が延期されたため、その分、若者の就職機会が奪われている。第三に、大学での専門と企業側の期待とのずれ。第四に、いつになったら景気が回復するのか分からない。第五に、労働条件が固定化しつつあり(解雇や給与削減が難しい)、新規採用を抑える。

  本書では若者の就業機会を増やすためにこそ大陸の経済成長を利用するのが得策という判断が示されていることを除くと、M字型の社会(富裕層と中低所得層との二極分化)、近い将来の産業分野など、日本の経済評論でよく見られるのとだいたい同じという印象を受けた。