嘉義県の沿岸部に位置する布袋(旧称は布袋嘴)は、海峡をはさみ直線距離で大陸や澎湖から近いので、古くから港町として栄えていた。17世紀には存在していた「魍港」もすぐ近くである。現在はかつてほどの賑わいは見られないが、澎湖への船便は出ているし、漁港としても知られている。また、周囲には塩田が広がっており、もともと製塩業の盛んな地域でもあったが、現在では行われていない。


  「高跟鞋婚禮教堂」は2016年に建設された観光モニュメントである。「高跟鞋」とは中国語でハイヒールのこと。青く半透明の巨大ハイヒールは不思議な存在感があり、夜にはライトアップされる。「教堂」とはいうが、名前だけで正式な教会ではなく、牧師も駐在していない。


布袋高跟鞋教堂1


布袋高跟鞋教堂2


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  一見したところ、ロマンティックな演出が凝らされているが、実はこのハイヒールには悲しい歴史が象徴的意味として込められている。


  嘉義県布袋鎮から南の台南市将軍区、七股区にかけての地域で、かつて「烏腳病」という奇病が流行した。足や手の先が黒ずんで壊死してしまうという症状が頻発したのである。原因はヒ素中毒であった。この地域は水資源に乏しく、飲料水を確保するにはかなり深くまで井戸を掘らなければならなかったのだが、水のある層に天然のヒ素が含まれていたと言われる。上水道が整備されて、ようやく「烏腳病」の流行は終わった。


  布袋のハイヒールは、西洋的な婚礼装束として女性の結婚への憧れを表わしている。同時に、「烏腳病」と結び付けた意義も持たされている。布袋の隣・将軍という町に生まれた王という24歳の女性が、「烏腳病」の症状が悪化したため、婚礼を目前にして両足を切断しなければならなくなった。まだ貧しく、古い価値観に縛られていた時代、身体が不具合になることは、すなわち結婚を断念しなければならないことを意味していた。そのような女性でも、新たな生活へと踏み出していけるようにという願いが、この青色の巨大ハイヒールに込められているという。


【追記】上記に紹介した「烏腳病」をめぐる説明は、後付けされた理由に過ぎない、という批判もあるというご指摘を受けましたので、合わせてここに記しておきます。