いま在籍している成功大学の歴史系館は、かつて日本陸軍の台湾軍第二連隊兵舎だった建物だが、現在、改修工事中であり、研究生用の研究室も今週から封鎖される。自分の荷物はいちはやく運び出していたのだが、こういう長年使われ続けて来た部屋には、得てして所有者不明の何かが残されているものだ。そうした中に國分直一『壺を祀る村 南方台湾民俗考』(東都書籍株式会社、昭和19年9月15日発行)があったので、遠慮なくいただいた。

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  初版本である。とは言っても、初版だけで、再版はされていないはずだが。奥付を見ると、2000部発行されたことが明記されている。なお、奥付の発行元は三省堂になっている。表紙に記された東都書籍というのは、確か三省堂の台湾における子会社だったように記憶している。

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  この本は、後に『壺を祀る村 台湾民俗誌』(法政大学出版局、1981年)として復刊された。復刊とはいっても、戦後に発表した論考も収録されて、構成はだいぶ変わっている。國分が何かに書いていたが、当時は応召されて校正する機会が一度もなく、誤字誤植がそのままの状態で刊行されてしまったそうだ。旧版をパラパラめくってみると、確かに明らかな誤植も目立つ。

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  もし、台湾関係で一番好きな本を挙げろ、と言われたら、私はおそらくこの『壺を祀る村』を挙げると思う。私自身は、いちおう台湾史を専門としてはいるものの、今のところ民俗学や考古学をやっているわけではない。ただ、この本は学術論文というよりもフィールド・ノートといった趣きで、國分が現地を歩きながら考えていたプロセスそのものが浮かび上がってくる。台南に来てから読み直してみると、その臨場感がより身近に感じられた。

  本書は平埔族研究の先駆的な著作でもある。國分が調査したとき、シラヤ族にはアリツ祖崇拝の習慣がまだ残っており、それはつまり、水を入れた壺を拝む儀礼である。本書の表題作の由来である。台南市佳里区にある北頭洋文化館では、平埔族研究に貢献した一人として國分が紹介されていた。