2020年1月11日(すでに日付がかわったから、今日)に台湾の総統・立法委員選挙が行われる。台湾では期日前投票の制度がなく、戸籍所在地でないと投票ができない。そのため、この日に合わせて人の移動が激しく、FBを見ていると日本在住の台湾人の知人も次々と台湾へ戻ってきている。この前後の時期の飛行機チケットは、ひょっとしたら春節よりも高いかもしれない。
日本では投票率を高めるため期日前投票などの制度的努力がなされているが、なかなか上昇していない。他方で、台湾の選挙では期日前投票もなく、戸籍地でないと投票できないなどの制限があるにもかかわらず、投票率は日本よりも高い(ただし、以前に比べると下がってはいる)。自分たちの一票が政権選択に直結するという実感があるのだろうし、政権選択を間違えたら困ったことになるという危機感もあるのだろう。
1月11日の午前8時から投票が始まり、午後4時に締め切られる。即日開票され、夜には大勢が判明するだろう。以下に台湾総統・立法委員選挙に関して基本的なことを整理しておく。
【選挙の概要】
■中華民国総統
中華民国総統の任期は四年。以前は国民大会を通した間接選挙によって総統が選出されていたが、李登輝政権下の民主化改革により1996年から「中華民国自由地区」を対象として直接選挙が開始された。2020年1月の総統選挙は7回目の直接選挙となり、1948年に就任した蒋介石を初代とすると、第15代目(再選も含む)の正副総統が選出される。
今回の総統選挙には民進党の現職・蔡英文が副総統候補の頼清徳(前行政院長、元台南市長)と共に立候補し、国民党からは総統候補の韓國瑜(高雄市長)と副総統候補の張善政(元行政院長、無党籍)、親民党から総統候補の宋楚瑜と副総統候補の余湘が立候補している。この3ペアはいずれも政党推薦枠である。他にも、呂秀蓮(陳水扁政権当時の副総統)など、無所属での立候補を模索した人もいるが、無所属立候補の場合に必要とされる署名人数が規定に届かず、断念した。
■立法委員
中華民国立法院(国会)は一院制で、立法委員の任期は4年。現在の選出方法は小選挙区比例代表並立制(小選挙区73議席、比例代表34議席)を基本としているが、他に平地原住民選挙区(3議席)、山地原住民選挙区(3議席)もあり、定員は合わせて113議席となる。以前の任期は3年、定員225議席(1998年実施の第4期から2004年実施の第6期まで)だったが、2008年から現行方式となった。この際、比例代表(不分区)に関しては「婦女保障名額」が導入された。
第1期立法委員選挙は1948年1月に中国全土を対象として実施されたが、翌1949年に国民党政権は台湾へ移転した。大陸地域で選挙を実施できないと中華民国の正統性を担保できないため、戒厳体制下において第1期立法委員の任期は延長され、万年議員の存在が大きな問題となった。台湾における民意調達のため、議席数を増やす形で1969年に補選が行われ、1972年以降は台湾地区など限定で3年ごとの部分改選も始まった。1992年に実施された全面改選を以て第2期とされ、2020年1月の選挙では第10期立法委員が選出される。
【選挙をめぐる論点】
2018年11月に実施された九合一(統一地方)選挙では国民党が圧勝し、蔡英文政権に対する不満が爆発したものと考えられた。その後の世論調査を見ても、しばらくの間は国民党優勢とされていた。ところが、2019年6~7月頃を境に民進党現職・蔡英文の支持が上向き始め、それまで優位を保っていた国民党・韓國瑜候補と逆転するようになった。これは一体なぜなのだろうか?
■香港要因
2019年2月に香港政府が逃亡犯条例改正の方針を発表したが、これにより中国側に身柄を引き渡される懸念が高まった。この条例改正案への反対運動、いわゆる「反送中」デモは3月の時点で始まっていたが、6月以降は大規模化。9月には林鄭月娥行政長官が改正案撤回を表明したものの、反対運動はいっそう高まり、11月には大学で衝突が発生し、区議会選挙では民主派が圧勝した。
香港の一国二制度はもともと台湾への適用を前提に制定されていたという経緯もあり、台湾人も香港情勢を注視している。香港における民主主義の危機を台湾の将来の問題と捉える人も多く、「亡国感」(こちらを参照)が一つの流行語となった。蔡英文政権は早くから香港情勢への懸念を示していた一方、国民党の反応は鈍く、「中国側とのつながりが太いから何も言えないのではないか?」と勘繰られる結果になった。各社世論調査では6~7月頃を境に蔡英文支持が韓國瑜支持を上回り始めており、時期的にみて香港における「反送中」デモの盛り上がりと符合している。
■中国要因
台湾政界は中国との統一を基本方針とする国民党と、台湾独立を党是とする民進党との対立軸を基本として構成されており、中国要因が選挙情勢を大きく左右する。上記の香港要因も広義の中国要因に含まれる。統一と独立との両極の間に現状維持を望む中間層がグラデーションを成しており、この層は中国との経済関係強化による繁栄を目指すか、それとも中国の非民主的政治体制への嫌悪感から反発するか、いずれにせよ中国側の態度に応じて揺れ動いている。
中国側の公定史観によると帝国主義列強に簒奪された領土の回復は中華民族の歴史的使命であり、そうした正統性の観点から台湾の併合は中国共産党の核心的利益と位置づけられている。従って、妥協はあり得ず、硬軟様々な方法で台湾側へ揺さぶりをかけ続けている。台湾独立を目指す民進党は拒絶し、国民党など統一派を側面支援するのが中国側の基本路線となっている。
1996年の総統選挙に際して、中国側は人民解放軍の軍事演習を敢えて実施して威嚇したが、台湾の選挙民の間では逆に反感が強まり、それが李登輝圧勝につながったとも言われる。また、2019年1月2日の習近平講話では台湾に対する強硬な姿勢が示され、これはかえって蔡英文政権の支持率にとってプラスとなった。
2019年11月にいわゆる「王立強事件」が明らかとなったが、中国側が様々な形で台湾側へ浸透工作を進めていることは以前から話題にはなっていた。こうした事態を受けて2019年12月31日に立法院で「反浸透法」が成立した(国民党は「緑色恐怖」と称して反対)。
■韓國瑜現象
2018年の九合一選挙では国民党が圧勝したが、とりわけ民進党の牙城とされていた高雄市長に国民党のダークホース・韓國瑜が当選したことは大きな驚きを以て受け止められた。彼は国民党圧勝のシンボルとなり、その流れで高雄市長在職のまま国民党の総統候補となった。こうした彼の人気の盛り上がりは一時期、「韓國瑜現象」や「韓流」と呼ばれた。
韓國瑜の特徴は何か? ①きさくで面白い人柄がメディア受けした。②「庶民派」イメージ。③眷村出身者(外省人)の強力な支持。彼の高雄市長当選は、こうした彼の個人要因に加えて、④民進党の不人気、⑤王金平・前立法院長(高雄出身)による票田切り崩し、といった要因も加わったベストミックスの結果と考えられる。
韓國瑜の現状はどうか? 第一に、高雄市長就任以来、虚言が多く、混乱が目立つ。第二に、豪邸問題で「庶民」イメージは崩れた。第三に、民進党の人気が回復。第四に、王金平と対立し、王が大きな影響力を持つ地方派閥への動員が期待できない。従って、高雄市長当選を可能とした要因①~⑤のうち、③を除く四つの要因について現時点では優位を失ってしまっている。
実は要因③に関しても問題は大きい。韓國瑜の熱烈な支持者を「韓粉」(粉絲=ファン)と呼ぶが、いわゆる「韓粉」は眷村の外省人が中心であり、彼らの排他的・攻撃的態度はしばしばトラブルをひき起こしている。従って、「韓粉」の熱心な支持は、逆に穏健層の票を流出させてしまうことが懸念される。「韓粉」については、こちらとこちらを参照のこと。
■台湾アイデンティティー
台湾政治では従来から「台湾独立派=緑」/「中台統一派=藍(青)」の対立軸が中心となってきた。
小笠原欣幸『台湾総統選挙』(晃洋書房、2019年)はこの対立軸をめぐって、「台湾ナショナリズム」/「台湾アイデンティティー」/「中国ナショナリズム」という三つに分けて分析枠組みとしている。「台湾ナショナリズム」と「台湾アイデンティティー」とを別個の概念として並べている点に特徴がある。ここで言う「台湾アイデンティティー」は台湾人意識を基盤とするものの、「自分は台湾人であると同時に中国人でもある」という自己認識も含まれており、二つのナショナリズムの間で広くグラデーションをなす層を把握しようとされている。小笠原の分析では、民進党は台湾ナショナリズムを、国民党は中国ナショナリズムを立脚点としているが、同時に両者の中間でグラデーションをなす「台湾アイデンティティー」の方へと支持を広げられるかどうかが総統選挙における勝敗の分かれ目となっていたことが示されている。
例えば、陳水扁は台湾ナショナリズムを強調しすぎたため中間の「台湾アイデンティティー」の支持を失い、他方で馬英九は「台湾アイデンティティー」へと支持を広げられたから政権を奪うことができた。こうした分析を2020年選挙に当てはめて考えると、蔡英文は一貫して穏健な現状維持路線であり(副総統候補の頼清徳には独立色が強いにせよ)、他方で韓國瑜は明らかに深藍的な色彩が強い。従って、「台湾アイデンティティー」という中間層へのアピールでは、蔡英文の方が優位にあると考えられる。
なお、国立政治大学選挙研究中心の調査によると、自らを台湾人と考える人は2019年時点で過半数を占め、台湾人かつ中国人と自己認識する人を含めると9割に及ぶ。他方、自らを中国人と考える人は5%前後で、台湾アイデンティティー(ここでは小笠原の用語とは区別)が主流化している傾向は顕著に読み取れる。また、統一か独立かをめぐって、2019年時点では現状維持もしくは独立傾向が増加している様子が分かる。
■有権者の年齢層
各社世論調査からは、蔡英文支持者は比較的若く、韓國瑜支持者には高齢層が多い傾向が見て取れる。これは国民党政権下で教育を受けた世代(40代以上)と、民主化以降に生まれ育って「事実上の独立」が所与の条件となっている世代(30代以下)との相違として把握できるかもしれない。後者にはいわゆる「天然独」も含まれ、上記の小笠原の分析枠組みで言うと「台湾ナショナリズム」から「台湾アイデンティティー」に分布しているが、「中国ナショナリズム」には少ないと考えられる。今後、世代交代が進むにつれて、藍系(中国ナショナリズム)の得票は減少する傾向が予想される。今年、初めて投票する有権者(首投族)の動向はどうであろうか。
■選挙動員
選挙分析では固定票と浮動票とを分けて考える必要がある。固定票に関しては族群、職能組織(例えば、軍公教など)、地方派閥など様々な要因が考えられるが、地域事情によって異なる。台湾の選挙管理委員会では「里」ごとに投票結果が公表されるので、小笠原欣幸『台湾総統選挙』ではこのデータを利用して選挙動員の分析が進められている。 「里」は最小の行政単位と言えるが、人数としては町内会的な規模で、それぞれの「里」ごとに特定の候補者が圧倒的な集票をしていれば選挙動員上の引き締めが積極的に行なわれたと想定される。特定候補者の得票と平均値との偏差を通して選挙動員の様相が分析されているが、詳細は同書を参照されたい。
■固定票:族群(エスニック・グループ)
台湾の選挙では、北部や東部は藍系が強く、中南部は緑系が強いと言われ、とりわけ濁水渓(彰化県と雲林県の境)が一つの基準と見なされている。一つの背景としては族群の分布が関係していると言われる。台湾中南部では閩南系人口が多数派を占めるが、そこでは民進党支持者が多い。ただし、閩南系でも国民党支持者は一定数いて、例えば後述する地方派閥は大きな影響力を持っていた。他方で外省人、客家系、原住民族には国民党支持者が多いとされる。このため、台北市(外省人が比較的多い)、新竹・苗栗(客家系が多い)、台東県・花蓮県・原住民選挙区はもともと国民党が優勢である。しかしながら、こうした族群による得票差が今後どうなるかは検討の余地があろう。
■固定票:軍公教
軍人、公務員、教員(軍公教)にはもともと外省人が多く、かつての国民党政権下で手厚い保護を受け、鉄壁な集票基盤とされていた。蔡英文政権下での年金制度改革で軍公教の特権的構造にメスが入れられたため、彼らは大きく反発している。しかしながら、彼らはもともと国民党の票田であるから、結果的には民進党の得票数への影響は小さいだろう。
なお、退役軍人は国民党の極めてアクティブな集票基盤(「黄復興党部」)であり、国民党の立法委員比例代表名簿上位に記載された呉斯懷はその代表である。国民党の呉敦義主席が自らの党内での立場を固めるため、呉斯懷を当選確実圏に置いて優遇することで、組織力の強い「黄復興党部」の支持を得ようとしたとも言われる。呉斯懷は退役将官だが、大陸へ渡って習近平の講話を聞いたことから親中派とみなされ、批判を浴びている。
■固定票:地方派閥
国民党政権は本来的に外来政権としての性格を持っていたため、地方レベルまで権力基盤を浸透させる上で、各地の地域ボスを統治システムに組み込んでいく必要があった。地域ボスを集票マシンとするのと引き換えに利権構造が形成され、こうした勢力は地方派閥(地方派系)と呼ばれる(こちらを参照のこと)。国民党政権下で立法院長を務めた劉松藩や王金平は地方派閥の元締め的存在であった。こうした地方派閥が現在でも力を持っているのかどうか? また、仮に力を持っているとして、王金平は韓國瑜と対立しており、これがどのような影響をもたらすか?
■経済要因
蔡英文政権に対する最大の不満は経済政策が奏功していない点にあった。韓國瑜は「台灣安全 人民有錢」というスローガンを掲げており、国民党の基本的な主張として、中国との関係強化が台湾の経済的繁栄につながるという論理が一貫して取られている。しかしながら、第一に、その論理を仮に認めても、自分自身はその恩恵にはあずかっていないと認識する有権者も多い。第二に、香港情勢をふまえ、経済よりも人権や民主主義の方を重視する有権者も増えている。経済要因の選挙への影響をどのように見積もることができるのか?
また、中国の低廉な労働力や大きな市場を目当てとして多くの台湾企業も中国へ進出した。ところが、近年、中国での人件費上昇などの要因により、台湾企業にとっても中国進出のメリットが以前ほど大きくはないとも言われる。こうした点も経済要因として影響があるかもしれない。
■蔡英文政権への評価
ここ半年の各社世論調査を見ていると、蔡英文政権の支持が高い。しかしながら、それは蔡英文政権が掲げた政策への積極的な支持と解釈できるかどうかは検討の余地がある。むしろ、第一に香港情勢(中国要因)、第二に国民党の低迷といった外的要因による側面が大きいのではないか。
■藍緑対立と政策理念体系とは一致しているのか?
世界的に考えると、政党理念の対立軸は左派/右派を軸として把握されることが多いが、台湾の場合はその政治史的特殊背景により台湾独立(緑)/中台統一(藍)を軸として描かれるのが一般的である。陳文俊「藍與綠──台灣選民的政治意識形態初探」(『選舉研究』第十卷第一期、2003年5月、41-80頁)の調査では、緑系はやや左派、藍系はやや右派という結果も示されている。民進党はもともと戒厳体制下における人権抑圧への批判勢力を結集して成立したという経緯があるため、進歩的価値観を持つ人は確かに多い。
しかしながら、戒厳体制批判は国民党の掲げる中国ナショナリズムへの反発とも結びついて台湾ナショナリズムの気運をも醸成していた。従って、民主化は台湾ナショナリズムが噴出する契機ともなり、民進党は人権擁護と同時に台湾ナショナリズムを掲げる政党でもある。この点から考えると、藍緑対立は国家アイデンティティーを基準としており、進歩派/保守派という政策価値観とは対立軸の構成ロジックが全く異なる。例えば、蔡英文政権の成果の一つとして同性婚問題があるが、民進党の主要票田の一つである長老教会からは反発を受けていた。逆に、都市部選出の国民党議員ならば進歩的価値観に基づく政策を支持する可能性もあるだろう。
■第三勢力
台湾の政界は国民党と民進党との対立を軸として動いてきたが、その間隙をぬって小政党も議席を獲得している。しかしながら、いずれも藍/緑のいずれかに分類される形になっていた。例えば、藍系:新党(1993年成立)、親民党(2000年成立)、無党団結連盟(2004年成立)。緑系:台湾団結連盟(2001年成立)、時代力量(2015年)。
こうした藍緑対立の二者択一的構図への不満は以前からくすぶっており、柯文哲・台北市長が藍緑対立の超克を主張して結成した台湾民衆党(2019年成立)は今回選挙の一つの目玉となっている。さらに、この動きに親民党の宋楚瑜や国民党を脱党した郭台銘も乗っかろうとしている。台湾民衆党が立法委員選挙でどれだけ議席を取ってキャスティング・ボードを握れるかどうかは今後の政局に大きく影響する。第三勢力に関してはこちらを参照のこと。
なお、今回、立法委員選挙不分区(政党比例代表、34議席)には19の政党が候補名簿を出しているが、5%以上の得票率がなければ議席獲得はできない。現時点で議席獲得の可能性があるのは、民進党、国民党、台湾民衆党、時代力量、親民党くらいであろうか(親民党は厳しい)。
■選挙運動のネット利用
各陣営は選挙運動で積極的にネットを活用しているが、アピールの対象が浮動票か固定票かで違ってくるだろう。浮動票狙いでは、例えば総統候補者が有名ユーチューバーの番組に出演して、とりわけ若い層への影響力に期待するという戦略も見られる。他方で、家族や友人を中心としたSNSのクローズドなネット空間は、従来ならば対面的な人間関係で行われていた集票活動が遠距離でも可能になったと考えらえる。また、FBなどで自らの政治的立場をはっきり表明する人も多い。
■フェイク・ニュース
台湾ではSNS利用率が極めて高いが、SNSを通してフェイク・ニュースが拡散される可能性についても懸念される。また、メディアも根拠不明な個人発のネットニュースをそのまま鵜呑みにして記事してしまうことすらあり、台湾社会全体としてフェイク・ニュースが広まりやすい素地があると言える。
今週も、国民党副秘書長・蔡正元が、「王力強事件は民進党の陰謀だった」とする記者会見を行った。ところが、それとほぼ同時にオーストラリアのメディアが「王力強は自らの証言は民進党に買収された結果だと偽証するよう国民党サイドから脅迫されたので警察に相談している」と報道した。蔡正元は選挙直前に「爆弾」を投げ込んで投票動向を変えようと画策したのだろう。投票さえ終わってしまえば、あとは何とでもなると考えたのかもしないが、結果的に失敗したので、今としては笑い話になる。しかしながら、フェイク・ニュースを選挙の道具として意図的に利用しようとする危険な発想がうかがえる。
■女性の政界進出
日本と比べると、台湾では政界に進出する女性が多く、蔡英文総統をはじめ政府や各政党の主要ポストで女性政治家の姿が見られる。台湾の選挙関係法規では「婦女保障名額」(立法委員不分区や地方議会の複数人区では一定数の女性候補が優先的に当選できるよう制度化)が定められており、女性の政界進出を後押ししている。
■把握しづらい台湾の民意動向
台湾の民意は風向きが変わりやすく、各陣営は投票日の時点で瞬間風速が最大となるよう努力している。しかしながら、偶発的な事件でこの風向きがあっさり変わってしまう可能性もあり、専門家は予測を裏切られる可能性を考えて発言には慎重になっている。
日本では投票率を高めるため期日前投票などの制度的努力がなされているが、なかなか上昇していない。他方で、台湾の選挙では期日前投票もなく、戸籍地でないと投票できないなどの制限があるにもかかわらず、投票率は日本よりも高い(ただし、以前に比べると下がってはいる)。自分たちの一票が政権選択に直結するという実感があるのだろうし、政権選択を間違えたら困ったことになるという危機感もあるのだろう。
1月11日の午前8時から投票が始まり、午後4時に締め切られる。即日開票され、夜には大勢が判明するだろう。以下に台湾総統・立法委員選挙に関して基本的なことを整理しておく。
【選挙の概要】
■中華民国総統
中華民国総統の任期は四年。以前は国民大会を通した間接選挙によって総統が選出されていたが、李登輝政権下の民主化改革により1996年から「中華民国自由地区」を対象として直接選挙が開始された。2020年1月の総統選挙は7回目の直接選挙となり、1948年に就任した蒋介石を初代とすると、第15代目(再選も含む)の正副総統が選出される。
今回の総統選挙には民進党の現職・蔡英文が副総統候補の頼清徳(前行政院長、元台南市長)と共に立候補し、国民党からは総統候補の韓國瑜(高雄市長)と副総統候補の張善政(元行政院長、無党籍)、親民党から総統候補の宋楚瑜と副総統候補の余湘が立候補している。この3ペアはいずれも政党推薦枠である。他にも、呂秀蓮(陳水扁政権当時の副総統)など、無所属での立候補を模索した人もいるが、無所属立候補の場合に必要とされる署名人数が規定に届かず、断念した。
■立法委員
中華民国立法院(国会)は一院制で、立法委員の任期は4年。現在の選出方法は小選挙区比例代表並立制(小選挙区73議席、比例代表34議席)を基本としているが、他に平地原住民選挙区(3議席)、山地原住民選挙区(3議席)もあり、定員は合わせて113議席となる。以前の任期は3年、定員225議席(1998年実施の第4期から2004年実施の第6期まで)だったが、2008年から現行方式となった。この際、比例代表(不分区)に関しては「婦女保障名額」が導入された。
第1期立法委員選挙は1948年1月に中国全土を対象として実施されたが、翌1949年に国民党政権は台湾へ移転した。大陸地域で選挙を実施できないと中華民国の正統性を担保できないため、戒厳体制下において第1期立法委員の任期は延長され、万年議員の存在が大きな問題となった。台湾における民意調達のため、議席数を増やす形で1969年に補選が行われ、1972年以降は台湾地区など限定で3年ごとの部分改選も始まった。1992年に実施された全面改選を以て第2期とされ、2020年1月の選挙では第10期立法委員が選出される。
【選挙をめぐる論点】
2018年11月に実施された九合一(統一地方)選挙では国民党が圧勝し、蔡英文政権に対する不満が爆発したものと考えられた。その後の世論調査を見ても、しばらくの間は国民党優勢とされていた。ところが、2019年6~7月頃を境に民進党現職・蔡英文の支持が上向き始め、それまで優位を保っていた国民党・韓國瑜候補と逆転するようになった。これは一体なぜなのだろうか?
■香港要因
2019年2月に香港政府が逃亡犯条例改正の方針を発表したが、これにより中国側に身柄を引き渡される懸念が高まった。この条例改正案への反対運動、いわゆる「反送中」デモは3月の時点で始まっていたが、6月以降は大規模化。9月には林鄭月娥行政長官が改正案撤回を表明したものの、反対運動はいっそう高まり、11月には大学で衝突が発生し、区議会選挙では民主派が圧勝した。
香港の一国二制度はもともと台湾への適用を前提に制定されていたという経緯もあり、台湾人も香港情勢を注視している。香港における民主主義の危機を台湾の将来の問題と捉える人も多く、「亡国感」(こちらを参照)が一つの流行語となった。蔡英文政権は早くから香港情勢への懸念を示していた一方、国民党の反応は鈍く、「中国側とのつながりが太いから何も言えないのではないか?」と勘繰られる結果になった。各社世論調査では6~7月頃を境に蔡英文支持が韓國瑜支持を上回り始めており、時期的にみて香港における「反送中」デモの盛り上がりと符合している。
■中国要因
台湾政界は中国との統一を基本方針とする国民党と、台湾独立を党是とする民進党との対立軸を基本として構成されており、中国要因が選挙情勢を大きく左右する。上記の香港要因も広義の中国要因に含まれる。統一と独立との両極の間に現状維持を望む中間層がグラデーションを成しており、この層は中国との経済関係強化による繁栄を目指すか、それとも中国の非民主的政治体制への嫌悪感から反発するか、いずれにせよ中国側の態度に応じて揺れ動いている。
中国側の公定史観によると帝国主義列強に簒奪された領土の回復は中華民族の歴史的使命であり、そうした正統性の観点から台湾の併合は中国共産党の核心的利益と位置づけられている。従って、妥協はあり得ず、硬軟様々な方法で台湾側へ揺さぶりをかけ続けている。台湾独立を目指す民進党は拒絶し、国民党など統一派を側面支援するのが中国側の基本路線となっている。
1996年の総統選挙に際して、中国側は人民解放軍の軍事演習を敢えて実施して威嚇したが、台湾の選挙民の間では逆に反感が強まり、それが李登輝圧勝につながったとも言われる。また、2019年1月2日の習近平講話では台湾に対する強硬な姿勢が示され、これはかえって蔡英文政権の支持率にとってプラスとなった。
2019年11月にいわゆる「王立強事件」が明らかとなったが、中国側が様々な形で台湾側へ浸透工作を進めていることは以前から話題にはなっていた。こうした事態を受けて2019年12月31日に立法院で「反浸透法」が成立した(国民党は「緑色恐怖」と称して反対)。
■韓國瑜現象
2018年の九合一選挙では国民党が圧勝したが、とりわけ民進党の牙城とされていた高雄市長に国民党のダークホース・韓國瑜が当選したことは大きな驚きを以て受け止められた。彼は国民党圧勝のシンボルとなり、その流れで高雄市長在職のまま国民党の総統候補となった。こうした彼の人気の盛り上がりは一時期、「韓國瑜現象」や「韓流」と呼ばれた。
韓國瑜の特徴は何か? ①きさくで面白い人柄がメディア受けした。②「庶民派」イメージ。③眷村出身者(外省人)の強力な支持。彼の高雄市長当選は、こうした彼の個人要因に加えて、④民進党の不人気、⑤王金平・前立法院長(高雄出身)による票田切り崩し、といった要因も加わったベストミックスの結果と考えられる。
韓國瑜の現状はどうか? 第一に、高雄市長就任以来、虚言が多く、混乱が目立つ。第二に、豪邸問題で「庶民」イメージは崩れた。第三に、民進党の人気が回復。第四に、王金平と対立し、王が大きな影響力を持つ地方派閥への動員が期待できない。従って、高雄市長当選を可能とした要因①~⑤のうち、③を除く四つの要因について現時点では優位を失ってしまっている。
実は要因③に関しても問題は大きい。韓國瑜の熱烈な支持者を「韓粉」(粉絲=ファン)と呼ぶが、いわゆる「韓粉」は眷村の外省人が中心であり、彼らの排他的・攻撃的態度はしばしばトラブルをひき起こしている。従って、「韓粉」の熱心な支持は、逆に穏健層の票を流出させてしまうことが懸念される。「韓粉」については、こちらとこちらを参照のこと。
■台湾アイデンティティー
台湾政治では従来から「台湾独立派=緑」/「中台統一派=藍(青)」の対立軸が中心となってきた。
小笠原欣幸『台湾総統選挙』(晃洋書房、2019年)はこの対立軸をめぐって、「台湾ナショナリズム」/「台湾アイデンティティー」/「中国ナショナリズム」という三つに分けて分析枠組みとしている。「台湾ナショナリズム」と「台湾アイデンティティー」とを別個の概念として並べている点に特徴がある。ここで言う「台湾アイデンティティー」は台湾人意識を基盤とするものの、「自分は台湾人であると同時に中国人でもある」という自己認識も含まれており、二つのナショナリズムの間で広くグラデーションをなす層を把握しようとされている。小笠原の分析では、民進党は台湾ナショナリズムを、国民党は中国ナショナリズムを立脚点としているが、同時に両者の中間でグラデーションをなす「台湾アイデンティティー」の方へと支持を広げられるかどうかが総統選挙における勝敗の分かれ目となっていたことが示されている。
例えば、陳水扁は台湾ナショナリズムを強調しすぎたため中間の「台湾アイデンティティー」の支持を失い、他方で馬英九は「台湾アイデンティティー」へと支持を広げられたから政権を奪うことができた。こうした分析を2020年選挙に当てはめて考えると、蔡英文は一貫して穏健な現状維持路線であり(副総統候補の頼清徳には独立色が強いにせよ)、他方で韓國瑜は明らかに深藍的な色彩が強い。従って、「台湾アイデンティティー」という中間層へのアピールでは、蔡英文の方が優位にあると考えられる。
なお、国立政治大学選挙研究中心の調査によると、自らを台湾人と考える人は2019年時点で過半数を占め、台湾人かつ中国人と自己認識する人を含めると9割に及ぶ。他方、自らを中国人と考える人は5%前後で、台湾アイデンティティー(ここでは小笠原の用語とは区別)が主流化している傾向は顕著に読み取れる。また、統一か独立かをめぐって、2019年時点では現状維持もしくは独立傾向が増加している様子が分かる。
■有権者の年齢層
各社世論調査からは、蔡英文支持者は比較的若く、韓國瑜支持者には高齢層が多い傾向が見て取れる。これは国民党政権下で教育を受けた世代(40代以上)と、民主化以降に生まれ育って「事実上の独立」が所与の条件となっている世代(30代以下)との相違として把握できるかもしれない。後者にはいわゆる「天然独」も含まれ、上記の小笠原の分析枠組みで言うと「台湾ナショナリズム」から「台湾アイデンティティー」に分布しているが、「中国ナショナリズム」には少ないと考えられる。今後、世代交代が進むにつれて、藍系(中国ナショナリズム)の得票は減少する傾向が予想される。今年、初めて投票する有権者(首投族)の動向はどうであろうか。
■選挙動員
選挙分析では固定票と浮動票とを分けて考える必要がある。固定票に関しては族群、職能組織(例えば、軍公教など)、地方派閥など様々な要因が考えられるが、地域事情によって異なる。台湾の選挙管理委員会では「里」ごとに投票結果が公表されるので、小笠原欣幸『台湾総統選挙』ではこのデータを利用して選挙動員の分析が進められている。 「里」は最小の行政単位と言えるが、人数としては町内会的な規模で、それぞれの「里」ごとに特定の候補者が圧倒的な集票をしていれば選挙動員上の引き締めが積極的に行なわれたと想定される。特定候補者の得票と平均値との偏差を通して選挙動員の様相が分析されているが、詳細は同書を参照されたい。
■固定票:族群(エスニック・グループ)
台湾の選挙では、北部や東部は藍系が強く、中南部は緑系が強いと言われ、とりわけ濁水渓(彰化県と雲林県の境)が一つの基準と見なされている。一つの背景としては族群の分布が関係していると言われる。台湾中南部では閩南系人口が多数派を占めるが、そこでは民進党支持者が多い。ただし、閩南系でも国民党支持者は一定数いて、例えば後述する地方派閥は大きな影響力を持っていた。他方で外省人、客家系、原住民族には国民党支持者が多いとされる。このため、台北市(外省人が比較的多い)、新竹・苗栗(客家系が多い)、台東県・花蓮県・原住民選挙区はもともと国民党が優勢である。しかしながら、こうした族群による得票差が今後どうなるかは検討の余地があろう。
■固定票:軍公教
軍人、公務員、教員(軍公教)にはもともと外省人が多く、かつての国民党政権下で手厚い保護を受け、鉄壁な集票基盤とされていた。蔡英文政権下での年金制度改革で軍公教の特権的構造にメスが入れられたため、彼らは大きく反発している。しかしながら、彼らはもともと国民党の票田であるから、結果的には民進党の得票数への影響は小さいだろう。
なお、退役軍人は国民党の極めてアクティブな集票基盤(「黄復興党部」)であり、国民党の立法委員比例代表名簿上位に記載された呉斯懷はその代表である。国民党の呉敦義主席が自らの党内での立場を固めるため、呉斯懷を当選確実圏に置いて優遇することで、組織力の強い「黄復興党部」の支持を得ようとしたとも言われる。呉斯懷は退役将官だが、大陸へ渡って習近平の講話を聞いたことから親中派とみなされ、批判を浴びている。
■固定票:地方派閥
国民党政権は本来的に外来政権としての性格を持っていたため、地方レベルまで権力基盤を浸透させる上で、各地の地域ボスを統治システムに組み込んでいく必要があった。地域ボスを集票マシンとするのと引き換えに利権構造が形成され、こうした勢力は地方派閥(地方派系)と呼ばれる(こちらを参照のこと)。国民党政権下で立法院長を務めた劉松藩や王金平は地方派閥の元締め的存在であった。こうした地方派閥が現在でも力を持っているのかどうか? また、仮に力を持っているとして、王金平は韓國瑜と対立しており、これがどのような影響をもたらすか?
■経済要因
蔡英文政権に対する最大の不満は経済政策が奏功していない点にあった。韓國瑜は「台灣安全 人民有錢」というスローガンを掲げており、国民党の基本的な主張として、中国との関係強化が台湾の経済的繁栄につながるという論理が一貫して取られている。しかしながら、第一に、その論理を仮に認めても、自分自身はその恩恵にはあずかっていないと認識する有権者も多い。第二に、香港情勢をふまえ、経済よりも人権や民主主義の方を重視する有権者も増えている。経済要因の選挙への影響をどのように見積もることができるのか?
また、中国の低廉な労働力や大きな市場を目当てとして多くの台湾企業も中国へ進出した。ところが、近年、中国での人件費上昇などの要因により、台湾企業にとっても中国進出のメリットが以前ほど大きくはないとも言われる。こうした点も経済要因として影響があるかもしれない。
■蔡英文政権への評価
ここ半年の各社世論調査を見ていると、蔡英文政権の支持が高い。しかしながら、それは蔡英文政権が掲げた政策への積極的な支持と解釈できるかどうかは検討の余地がある。むしろ、第一に香港情勢(中国要因)、第二に国民党の低迷といった外的要因による側面が大きいのではないか。
■藍緑対立と政策理念体系とは一致しているのか?
世界的に考えると、政党理念の対立軸は左派/右派を軸として把握されることが多いが、台湾の場合はその政治史的特殊背景により台湾独立(緑)/中台統一(藍)を軸として描かれるのが一般的である。陳文俊「藍與綠──台灣選民的政治意識形態初探」(『選舉研究』第十卷第一期、2003年5月、41-80頁)の調査では、緑系はやや左派、藍系はやや右派という結果も示されている。民進党はもともと戒厳体制下における人権抑圧への批判勢力を結集して成立したという経緯があるため、進歩的価値観を持つ人は確かに多い。
しかしながら、戒厳体制批判は国民党の掲げる中国ナショナリズムへの反発とも結びついて台湾ナショナリズムの気運をも醸成していた。従って、民主化は台湾ナショナリズムが噴出する契機ともなり、民進党は人権擁護と同時に台湾ナショナリズムを掲げる政党でもある。この点から考えると、藍緑対立は国家アイデンティティーを基準としており、進歩派/保守派という政策価値観とは対立軸の構成ロジックが全く異なる。例えば、蔡英文政権の成果の一つとして同性婚問題があるが、民進党の主要票田の一つである長老教会からは反発を受けていた。逆に、都市部選出の国民党議員ならば進歩的価値観に基づく政策を支持する可能性もあるだろう。
■第三勢力
台湾の政界は国民党と民進党との対立を軸として動いてきたが、その間隙をぬって小政党も議席を獲得している。しかしながら、いずれも藍/緑のいずれかに分類される形になっていた。例えば、藍系:新党(1993年成立)、親民党(2000年成立)、無党団結連盟(2004年成立)。緑系:台湾団結連盟(2001年成立)、時代力量(2015年)。
こうした藍緑対立の二者択一的構図への不満は以前からくすぶっており、柯文哲・台北市長が藍緑対立の超克を主張して結成した台湾民衆党(2019年成立)は今回選挙の一つの目玉となっている。さらに、この動きに親民党の宋楚瑜や国民党を脱党した郭台銘も乗っかろうとしている。台湾民衆党が立法委員選挙でどれだけ議席を取ってキャスティング・ボードを握れるかどうかは今後の政局に大きく影響する。第三勢力に関してはこちらを参照のこと。
なお、今回、立法委員選挙不分区(政党比例代表、34議席)には19の政党が候補名簿を出しているが、5%以上の得票率がなければ議席獲得はできない。現時点で議席獲得の可能性があるのは、民進党、国民党、台湾民衆党、時代力量、親民党くらいであろうか(親民党は厳しい)。
■選挙運動のネット利用
各陣営は選挙運動で積極的にネットを活用しているが、アピールの対象が浮動票か固定票かで違ってくるだろう。浮動票狙いでは、例えば総統候補者が有名ユーチューバーの番組に出演して、とりわけ若い層への影響力に期待するという戦略も見られる。他方で、家族や友人を中心としたSNSのクローズドなネット空間は、従来ならば対面的な人間関係で行われていた集票活動が遠距離でも可能になったと考えらえる。また、FBなどで自らの政治的立場をはっきり表明する人も多い。
■フェイク・ニュース
台湾ではSNS利用率が極めて高いが、SNSを通してフェイク・ニュースが拡散される可能性についても懸念される。また、メディアも根拠不明な個人発のネットニュースをそのまま鵜呑みにして記事してしまうことすらあり、台湾社会全体としてフェイク・ニュースが広まりやすい素地があると言える。
今週も、国民党副秘書長・蔡正元が、「王力強事件は民進党の陰謀だった」とする記者会見を行った。ところが、それとほぼ同時にオーストラリアのメディアが「王力強は自らの証言は民進党に買収された結果だと偽証するよう国民党サイドから脅迫されたので警察に相談している」と報道した。蔡正元は選挙直前に「爆弾」を投げ込んで投票動向を変えようと画策したのだろう。投票さえ終わってしまえば、あとは何とでもなると考えたのかもしないが、結果的に失敗したので、今としては笑い話になる。しかしながら、フェイク・ニュースを選挙の道具として意図的に利用しようとする危険な発想がうかがえる。
■女性の政界進出
日本と比べると、台湾では政界に進出する女性が多く、蔡英文総統をはじめ政府や各政党の主要ポストで女性政治家の姿が見られる。台湾の選挙関係法規では「婦女保障名額」(立法委員不分区や地方議会の複数人区では一定数の女性候補が優先的に当選できるよう制度化)が定められており、女性の政界進出を後押ししている。
■把握しづらい台湾の民意動向
台湾の民意は風向きが変わりやすく、各陣営は投票日の時点で瞬間風速が最大となるよう努力している。しかしながら、偶発的な事件でこの風向きがあっさり変わってしまう可能性もあり、専門家は予測を裏切られる可能性を考えて発言には慎重になっている。