1949年1月27日、上海を出航して基隆へと向かっていた客船「太平輪」が貨物船と衝突して沈没。1000人近くが犠牲となり、救助されたのはわずか50人ほどという大惨事であった。ちょうど国共内戦で国民党の敗色が濃くなりつつある時期で、台湾へ逃れるため乗船していた人々も多かったという。

  ジョン・ウー監督の新作「太平輪:亂世浮生」(英題:The Crossing)は、この実際に起こった沈没事故を基に脚色して、国共内戦を背景に様々な人生が交錯する物語に仕立て上げている。

  物語は第二世界大戦末期から始まる。大陸での戦闘で日本軍を降伏させた英雄・雷将軍(黄暁明)は上海での夜会で見初めた資産家の令嬢・周蘊芬(ソン・ヘギョ)と結婚した。同じ頃、上海の街中で路頭に迷っていた于真(章子怡)は、身元証明の資料とするためこれから出征する佟大慶(佟大為)との「家族写真」を偽造。于真の優しさに触れた佟大慶は出征先でも彼女のことを思い続ける。雷将軍、佟大慶とも共産党軍と戦うため極寒の東北地方へ向かった。他方、安全のため親の言いつけで台湾へ上陸した周蘊芬は、台湾人の医者・嚴澤坤(金城武)と知り合い、彼がかつて思いを寄せていた日本人の恋人・雅子(長澤まさみ)の話を聞く。こうした3組の男女の運命を絡み合わせながら、歴史の大きな奔流に翻弄される群像が描き出される。

  膨大な製作費をかけているだけあって戦闘シーンもふんだんに盛り込まれている。中盤以降は長春攻囲戦(と映画中では明示されていないが、兵糧攻めの描写は長春攻囲戦を想起させる)のシーンが延々と続き、いつになったら「太平輪」沈没事故へと物語がつながるのだろう?と不審に思っていたら、そのままエンド・クレジットへと突入。後篇へ続く、とのこと。後篇の上映は2015年5月に予定されているらしい。映像的には飽きさせないし、物語のスケールが大きいのも魅力的ではあるが、他方で3組の男女の話題が同時進行なので、ストーリー構成が散漫になりかねない。まだ結末を見ていないので感想は保留するしかないが、こうした伏線が後篇でどのように収斂していくのだろうか。

  長春攻囲戦は林彪の指揮する共産党軍が戦略として兵糧攻めを採用、国民党軍側に膨大な餓死者を出した。大陸の公定史観ではタブーとなっているため、中国側からも出資を受けているこの映画では触れられていないが、史実では長春の一般市民も巻き添えになったことで悪名高い(『卡子』を著した遠藤誉さんは長春攻囲戦から命からがら脱出した。龍應台『台湾海峡一九四九』にも長春攻囲戦について言及がある)。主役の一人、雷将軍は立てこもり軍の指揮官。起死回生の突撃計画を上官に却下されたとき、「10万人の兵士の命に誰が責任を取るんだ!」と詰め寄ったら、「この老人の責任だ」と見せられるのが、蒋中正の署名入り命令書。初めの方では上海での民衆デモが軍警に弾圧されるシーンもあるし、蒋介石は隠れた敵役ということか。

  雷将軍の妻・周蘊芬は台湾へ上陸し、日本人が残した家屋に入居する。他の家族は「今まで日本と戦ってきたのに…」と文句を言っているが、彼女は素足で歩くと気持ちの良い木造家屋に満足の様子。現地採用のお手伝いさんが国語(中国語)を話さないことに執事が不満を漏らすシーンがあるが、そのときに彼女が「あなたも閩南語を習いなさい」となだめるのは、外省人も台湾へ根を下ろさざるを得なくなる成り行きを暗示している。

  主役の一人、金城武が演じる嚴澤坤は徴用されて日本軍の軍医となり、大陸へ渡った台湾人である。基隆へ上陸したとき、係官から「戦犯収容所に入れられていたのか」と不審げに見られるシーンがあった。日本統治時代、医者志向の強い台湾では、満洲医科大学へ留学する人も結構いた。例えば、許雪姫《日治時期在「満洲」的台湾人》(中央研究院)でインタビューを受けている人にも医者が多い。こうした背景を踏まえて金城武の役柄が設定されたのだろう。