(承前)総爺藝文中心から歩いて15分くらいで麻豆代天府にたどり着いた。近づくにつれ、祭礼の喧騒が風に乗って聞こえてくる。廟前の道路には観光バスが多数駐車されており、おそらく神様の送迎行事か何かで団体客が来ているのであろう。中に入ってみると、とにかく建物がでかい。ここは王爺信仰で著名な廟堂らしい。建物には対岸福建省は泉州のスタイルが見られる。

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  本殿の裏にまわると、「十八地獄」めぐりの展示がある。入り口を見るかぎりチープなお化け屋敷という感じ。お布施として40元払って入場する。階段を降りて地下へ進むにつれて暗くなってくる。要するに、現世で悪事を働いた人間が来世でいかに責苦を受けるか、電動人形を動かして表現しているわけだが、電動人形がまた若干古いもので、それがカクカク動く感じとか、いかにも「おどろおどろしさ」を演出しているような効果音とか、何とも味わい深いB級テイストを醸し出している。麻豆へ来る機会があったら、話のタネにとりあえず見ておいた方がいいかもしれない。さらに天国編もあるが、別途40元払わないといけないし、地獄めぐりだけでもお腹いっぱいになったので、先を急ぐ。


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  代天府から麻豆の現在の中心街へ向けてぶらぶら歩く。10月のこの時期、日差しはあるものの、そよ風が頬を撫でるのが実に心地よく、お散歩日和。特にこれと言ったものはないが、のどかな風景の広がる中をゆっくり歩くのはなかなか楽しい。

  15分くらい歩いたろうか、徐々に繁華街らしき街並みへと風景が変化してきた。台湾の他の町でも見られる老街に比べると規模は割合に大きいが、バロック式の古い建物はところどころにしか見られない。そうした中、電姫戯院という映画館が目を引く。1937年に開業、現在はすでに閉鎖されている。世界中の著名な映画監督が映画館をテーマに撮ったオムニバス映画「それぞれのシネマ」のために侯孝賢がまさにここを舞台として「電姫戯院」という短編映画を撮っているらしいが、私は未見。


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  せっかく麻豆まで来たので、蘭椀棵という有名店で名物の碗粿を食べる。碗粿とは何か説明するのは難しいが、お米を加熱してペースト状にしたものに肉や小エビ、シイタケなどの具材を混ぜてお椀の中に入れ、お椀ごと蒸した小吃と言ったらいいのか。台南でも食べられるが、本来は麻豆が有名らしい。


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  麻豆中心街の圓環というバス停から17時ちょっと前に来た台南行きバス(橘12線)に乗って台南へ戻る。隆田駅で下車してこのバス停でバスに乗り込むまで、所要時間は約6時間半。

  麻豆古港でうかがえるシラヤ族の痕跡。麻豆代天府で目の当たりにした閩南系の廟堂。日本統治時期の砂糖工場。そして麻豆老街。麻豆を数時間歩いただけでも、台湾に刻まれた歴史的重層性の一端が垣間見えてくる。