ふぉるもさん・ぷろむなあど

台湾をめぐるあれこれ

本館ブログ(書評等):ものろぎや・そりてえる(http://barbare.cocolog-nifty.com/
ツイッター:https://twitter.com/troubadour_k
(運営者:黒羽夏彦 /黑羽夏彥/KUROHA Natsuhiko 2014年1月開設)

  2018年11月24日には九合一選挙(統一地方選挙)と同時に、公民投票(公投、日本語的には国民投票)が実施された。


  公民投票は2004年に施行された公民投票法に基づいて実施される。以前には6件の案件が提起されたが、いずれも投票成立要件を満たせなかったため不成立となっていた。2017年12月の公民投票法改正により公民投票実施要件が緩和されたため、今回は合わせて10件もの案件が提起されることになった。提起にあたっては、有権者の10,000分の一以上が提案者として必要であり、有権者の1.5%以上の署名によって提起することができる。投票結果は政府の判断に大きく影響する。今回提起されたテーマ及び投票結果は下記の通りである。


公民投票リスト-001

  以上の公民投票テーマは大きく分けて、第一に環境問題等に関わるもの、第二に婚姻の平等(婚姻平權)に関わるもの、第三に台湾の対外関係に関わるものという三種類に整理することができる。


  第一の環境問題等に関わるテーマは、主に国民党系の人々によって提起されているのが特徴である。第7番(火力発電量の低下を促すことで空気汚染対策を行う)の提起者(提案者リスト筆頭)である盧秀燕は、同時に実施された九合一選挙において空気汚染対策を掲げて台中市長選挙に立候補し、現職の林佳龍(民進党)を大差で破って当選した。第8番(石炭による火力発電施設の停止)を提起した林徳福は新北市選出の国民党籍立法委員である。第9番(放射能汚染食品の日本からの輸入禁止措置を継続)を提起した郝龍斌は元台北市長で国民党の大物政治家である(ただし、前回の立法委員選挙で落選)。第16番(グリーンエネルギーとして原子力を活用)を提起した黄士修は科学者であるが、政策立場上は国民党に近い。以上の提案はすべて過半数の同意を得てパスした。


  第二の婚姻の平等に関わるテーマは、賛成・反対双方の立場から合わせて5つも提起されているのが特徴である。ジェンダー平等の観点から同性婚を認めるため民法を改正することの是非、小中学校でジェンダー平等の教育を実施することの是非が争点となっている。第14、15番はジェンダー平等の主張を掲げた「平権前夕、彩虹起義(平等の夜明け、レインボーの蜂起)」によって提起されている。なお、第14番の提案者となった苗博雅は同時に実施された九合一選挙において社会民主党から台北市議に当選した。反対の立場から第10、11番を提起した「下一代幸福聯盟(次世代幸福聯盟)」はキリスト教保守派の団体。民法改正には反対しつつも、同時に第12番では同性愛者の権利保障のための特別立法も提案している点には留意する必要があろう。上記のうち「平権前夕、彩虹起義」が提案した第14、15番は不成立となり、「下一代幸福聯盟」が提起した第10、11、12番は過半数の同意を得てパスした。


  第三に、台湾の対外的地位に関わるテーマは、元オリンピック選手の紀政によって提起された第13番で、2020年東京オリンピックに現在の「中華台北」ではなく、「台湾」名義で出場することを求めている。これは過半数の同意が得られず不成立となった。


  私としては、個々の結果についてその是非を論評するつもりはない。ただ、公民投票制度の運用上、気にかかった問題点をいくつかメモしておきたい。それは、日本で国民投票制度導入について議論する上でも参考になるだろう。


  第一に、テーマの内容的重複。今回は10項目ものテーマが提起されたが、そのうち5項目は婚姻の平等に関わる内容である。賛成派、反対派の各団体がそれぞれ対抗的に提起したためこのような乱立状況になってしまったが、いたずらに有権者を混乱させるばかりであろう。論点整理ができる制度的工夫はないものだろうか?


  第二に、テーマ相互の矛盾。これもテーマ乱立の結果としてもたらされた混乱である。例えば、第9番(放射能汚染食品の日本からの輸入禁止措置を継続)と第16番(グリーンエネルギーとして原子力を活用)はそれぞれ過半数を超える同意を得て成立したが、内容的整合性に疑問符がつく。もちろん、原子力利用において事故を起こさなければ問題ない、と言ってしまえば、論理的矛盾は表面上解消されるかもしれないが、価値観的方向性として両者はやはり背馳するであろう。


  第三に、テーマの実現不可能性や将来的損失可能性。例えば、第13番(東京オリンピックに「台湾」名義で出場)は今回、過半数の同意が得られずに不成立となったが、もしこれがパスしていたら、どのような事態が想定されるだろうか? 台湾は国際オリンピック委員会に「中華台北」名義を受け入れたことで、選手たちの出場を可能にしているので、「台湾」名義の出場を求め始めたらトラブルになる。何よりも、中国があらゆる手段を講じて台湾選手の国際大会出場を妨害するであろうことは間違いなく、結果的に台湾が蒙る不利益はより大きくなることが投票実施前から予想されていた。実際のところ、台湾主体派の間でも、現実的な不利益を考えて、このテーマに困惑する向きも見られた。


  公民投票は、端的に表現すると、言いっぱなしである。第二のケースでは公民投票で同時に示された矛盾した民意への調整が要請され、第三のケースでは国外情勢における利害衝突の解決が要請される。当然であるが、投票成立後に生じる現実政治上の矛盾の調整解決に責任を負うのは政府である。そうであるなら、最初から政治の領域に任せる方が良いのではないか。議会(立法院)や総統は、選挙を通して民意を付託された政治機関であり、そちらの経路を通して課題の矛盾調整を図る方が常道であろう。公民投票になじむテーマかどうかの選定は難しい問題である。


  婚姻の平等については、私は公民投票にふさわしいテーマ提起だと思う。ちなみに、民進党政権はこの問題に関わることに及び腰であった。民進党には進歩主義的リベラルも多数含まれているのでちょっと不思議にも感じられるが、他方で、長老教会などキリスト教団体は民進党の有力支持基盤であり、とりわけキリスト教保守派が反対しているため、微妙な立場に置かれていた。


  第四に、政局的駆け引きとの連動。まず基本的な前提として、政党同士の討議で決められる政策課題は議会(立法院)を中心に議論すればよい。政党の枠組みを超えて、価値観に関わるより大きな方向性について問うときにこそ公民投票は活用されるべきであり、そうでなければ公民投票の意義はない。


  そのように考えると、政党色の強い九合一選挙(統一地方選挙)と政党の枠組みを超えた価値観を問うべき公民投票とを同時に実施すると、後者が前者に引きずられる事態が生じてしまい、それが果たして公民投票の意義に合致することなのか?という疑問が生ずる。


  例えば、第7番(火力発電量の低下を促すことで空気汚染対策を行う)の提起者である盧秀燕は、九合一選挙において国民党から台中市長選挙に立候補し、公民投票テーマと同じく空気汚染対策を看板政策に掲げていた。結果として、現職の林佳龍(民進党)を大差で破って当選した。もちろん、民進党劣勢の情勢下、林佳龍の敗北には様々な要因が考えられにせよ、盧秀燕が公民投票を選挙手段にしたと捉えることも可能であり、それが実際の選挙結果と連動していたかどうかは確認してみたい問題である。また、第9番(放射能汚染食品の日本からの輸入禁止措置を継続)を提起した郝龍斌は国民党の大物政治家である。この禁輸措置の問題は、措置の緩和を模索する民進党に対して、国民党が立法院で以前から攻撃する材料としてきた経緯があり、公民投票を政局的に利用しようとする姿勢が鮮明である。


  その他、私自身の身近なところで観察した範囲内で言うと、例えばSNSを使って、当選して欲しい公職選挙候補者と公民投票の同意・不同意を一覧表にしたものが出回ったりもしていた。深く考えていない有権者であれば、こうした勧誘に引きずられてしまうだろう。


  私自身としては、公民投票(もしくは国民投票)はうまく活用すれば民主主義を活性化させる補完ツールになり得ると考えているが、実際には問題も多い。今回の公民投票実施の様子から考えると、少なくとも公民投票の政局的利用を回避する手立てが必要であろう。例えば、実施日程を切り離すなど技術的に多少は改善できる余地もあるように思われる。

  昨日(2018年11月24日)、台湾で統一地方選挙(九合一選挙)が実施されたが、台北市長選挙に関しては無所属の現職・柯文哲と国民党候補・丁守中との間で大接戦となり(民進党候補の姚文智はいち早く敗北宣言を出した)、本日午前2時頃になってようやく柯文哲の再選が確定した(ただし、得票数が僅差の場合[0.3%以内]、第二位陣営は再集計の申し立てができるため、丁守中陣営はその用意をしている模様)。他方、民進党が惨敗を喫した結果を受けて、蔡英文総統は兼任する民進党主席を辞任したほか、頼清徳・行政院長、陳菊・総統府秘書長もそれぞれ辞意を表明するなど、民進党政権の動揺している様子がうかがえる。


P_20181125_100929



  開票結果が確定したので、前回2014年の九合一選挙結果と比較しながら今回の選挙について考えてみたい。六大直轄市に焦点を合わせ、それぞれの選挙結果(候補者、得票数、得票率を示し、柯文哲以外の無所属候補は省略)を整理したので掲げておく。


台湾市長選挙-001


■台北市長
  現職の柯文哲(無所属)が国民党候補・丁守中を相手に辛勝し、その差はわずかに3,254票(0.23%)に過ぎない。民進党候補・姚文智はいち早く敗北宣言を出した。ただし、民進党は前回、柯文哲と事実上の選挙協力を行って独自候補を出しておらず、今回の柯文哲と姚文智の合計得票数は、前回の柯文哲の得票数にほぼ匹敵する。また、今回の丁守中の得票数は前回に国民党から出馬した連勝文の得票数と比べるとほぼ変わらない(得票数は微減、得票率は同じ)。


  台北市はかつて国民党の牙城とされており、前回、柯文哲が立候補を表明した時点では、その当選可能性は疑問視されていたくらいであった。ところが、柯文哲ブームが巻き起こり、それに民進党が乗っかることで、本命視されていた国民党候補が敗れ、その後、総統・立法院選挙における民進党大勝への流れをつくった。言い換えると、前回は民進党自身が支持を集めたというよりも、国民党への不満が柯文哲現象として表われ、民進党はそれに歩調を合わせる選挙戦略をとったことで勝利したと言える。柯文哲と民進党が決裂しなければ、今回も柯文哲は大勝したであろう。台北市長の選挙結果からは、国民党は必ずしも勢いがあるとは言えず、むしろ第三勢力への期待が続いている様子がうかがえる。


■新北市長
  新北市は旧台北県が直轄市に昇格したもので、台北市を取り囲む形で広がっている。台北を東京にたとえるなら、新北市は神奈川県、埼玉県、千葉県を合わせたような位置づけになるだろうか。


  前回は国民党のホープ・朱立倫が当選、六大直轄市の中で国民党が確保できた唯一の市長であった。その時の民進党の対立候補・游錫堃は行政院長も経験した民進党のベテラン政治家で、その分、清新なイメージに欠けていた。そのため、事前情勢予測では朱立倫が圧勝すると言われていたのだが、蓋を開けてみると、游錫堃から1.28%にまで票差を縮められており、朱立倫はかろうじて当選したものの、面目を失する結果になっていた。前回、もし民進党がもっと斬新な候補者を立てていたら勝てたかもしれないと言われたくらいである。


  今回は朱立倫市長の下で副市長を務めていた侯友宜が順当に当選した。民進党の対立候補はやはりベテラン政治家の蘇貞昌で、彼はかつて台北県長を務めた経験があるので地盤があると言えばあるが、やはり清新なイメージに欠け、スイングボードを動かすような決定力はなく、前回と比べて票差が広がった。


■桃園市長
  ここは前回当選した民進党の鄭文燦が再選され、得票数・得票率とも増やしており、民進党の当選者としては唯一、安定した結果を示している。鄭文燦個人の行政手腕が評価されたものと考えられる。


■台中市長
  前回は民進党の林佳龍が、国民党の大物で現職・胡志強を大差で破り、民進党大勝の象徴の一つとされた。今回、国民党の新人女性候補・盧秀燕を相手に、その林佳龍が敗れたが、得票数を見ると、前回と今回とでちょうど逆になっている。


■台南市長
  台南市は民進党の牙城であり、民進党内における候補者プライマリーで黄偉哲が決定した時点で、彼はほぼ当選したも同然とさえ考えられていた。今回の選挙結果を見てみると、黄偉哲は確かに当選はできたものの、前回に頼清徳(後に行政院長へ転出)が獲得した票数と比べると半分近くも減らしており、得票率はわずか38.02%にとどまった。これは民進党にとって、事実上、敗北に近い意味を有する結果だと思われる。


  国民党から出馬した対立候補の高思博は、父親が元台南県会議長、姉の夫は朱立倫という政治家名門一族の出身で、本人も親民党から立法委員に当選したことがある(親民党と国民党との選挙協定に基づいて)。前回に国民党から出馬した黄秀霜(国立台南大学長)と比べると高思博は得票数をややのばしたものの、国民党候補者の中では最低の32.37%に過ぎない。


  台南市長選挙では国民党、民進党の二大政党以外に無所属系候補者が乱立しており、それぞれの得票数・得票率は陳永和(無所属、117,179票、12.12%)、林義豊(無所属、84,153票、8.71%)、許忠信(国立成功大学教授、台湾団結連盟、45,168票、4.67%)、蘇煥智(元台南県長、元立法委員、民進党を離党、39,778票、4.11%)という形で、二大政党以外の票がある程度まとまった形で分散していたことが分かる。これらを合計すると29.61%に達する。見方を換えれば、国民党、民進党、無所属系で得票率が三分されたとも言える。今回の無所属系の得票は、前回において民進党の頼清徳へ投票した有権者の一部が移動したものと捉えることができるだろう。従って、台南市長選挙において国民党は民進党批判の受け皿として機能しなかった。


  こうした中でとりわけ注目されるのは、第三位につけた陳永和である。実は、私は彼を個人的に知っているので、呼びつけするのは気が引けるのだが、文章の統一性を考えて敬称はつけない。確か、彼はもともと民進党支持者だったと思う。ところが、彼の故郷(台南市龍崎区牛埔)に産業廃棄物埋立処理場が建設されることになり、生態系破壊のおそれがあるため、その説明を台南市政府や行政院に求めたものの、けんもほろろの対応であった。彼はやむを得ず台南市長選挙に立候補することで、こうした問題について世間に訴えようとしたのである。彼はネジ工場の経営者に過ぎず、政治的な背景など全くない。家族が協力して手作りの選挙活動をしていたのを私は間近で見ていて知っている。最初は泡沫候補に過ぎなかったものが12%以上もの票を得られたのは、実に奇蹟的である。


  台南市長選挙で無所属候補が台頭する予兆は以前からあった。第四位につけた林義豊は早い段階から選挙活動を展開していた。彼は成金の道楽で出馬したような感じで、奇矯なパフォーマンスが話題を呼び、一時は世論調査で国民党の高思博を上回るほどの勢いがあった。結果的に第四位に甘んじたが、それでも8%以上を得ている。二大政党の両方に不満を持つ層の間で林義豊の存在感が当初は際立ったものの、真面目な投票態度を持つ有権者の間に陳永和の真摯な態度が浸透することで、投票行動に変化が起ったものと考えられる。


■高雄市長
  高雄は台南と同様に民進党の鉄壁な牙城と考えられており、国民党候補の韓國瑜が意外な勝利を収めたことは、今回の選挙結果を象徴する出来事である。前回九合一選挙が柯文哲現象で特徴づけられるとするなら、今回の九合一選挙は韓國瑜現象によって特徴づけられるであろう。


  前回の高雄市長選挙では民進党の現職・陳菊(後に総統府秘書長に転出)が安定の再選を果たしたのだが、この時に国民党から出馬した対立候補は、実は元民進党員で旧高雄県長を務めた楊秋興であった(旧高雄市と旧高雄県が合併して現在の大高雄市になった)。言い換えれば、この時の国民党は旧民進党系の人脈も使わなければ候補者擁立すらおぼつかない状況であった。


  民進党は陳菊が総統府へ転出した後継候補を選ぶためプライマリーを実施し、陳其邁に決定したが、民進党にとって高雄は牙城という安心感があったため、この時点で彼は高雄市長に当選したも同然のような雰囲気が漂っていた。高雄市在住の知人の話を聞くと、民進党のこうした態度が一般市民からすれば驕りのような嫌な感じに受け止められていたという。


  そうした中、韓國瑜の個人的なキャラクターがネットやメディアを通して人気を博すようになり、あっという間にブームを巻き起こした。ほんの2、3か月前のことで、私としても本当に唐突な印象である。韓國瑜は国民党の立法委員を務めたことがあるものの、党内では冷飯組であった。民進党候補が当選確実という雰囲気の中、高雄市長選挙に出ても所詮は当て馬に過ぎないわけだから、逆に失うものはない。破れかぶれな突っ走りが、かえって勢いに乗ったような印象を受ける。今朝の新聞報道を見ると、今回、初めて投票権を得た若い人たち、いわゆる「首投族」に関して、高雄では韓國瑜への支持が圧倒的であったという。


  韓國瑜は第一に民進党が圧倒的に優勢な中で泡沫的存在にすぎず、第二に国民党内でも反主流的存在であった。こうした二重の意味での非主流性が、彼のメディア受けする個性的キャラクターと相まって存在感を高めたように思われる。ただし、韓國瑜現象についてすでに色々と論評は出ているものの、その構造要因的背景は実のところまだよく分からず、投票行動分析等の成果が待たれる。


■各直轄市議会議員選挙
  次に、各直轄市議会議員選挙の結果についても合わせて比較しておきたい。台湾各市議会の選挙は中選挙区制となっており、それぞれに特有の選挙区事情を有するが、細かく検討する余裕がないので、ここでは獲得議席数のみに基づいて考える。国民党、民進党それぞれの獲得議席数を下に整理したが、無所属や小党派については便宜上、その他として一括した。


市議会議員選挙結果-001

  全体的な傾向として見ると、新北市、高雄市では国民党が大幅に増加、民進党が大幅に減少している。他方で、台北市では国民党は微増(1議席増加)にとどまり、民進党は大幅に減少し、その他が大幅に増えている。つまり、新北市と高雄市では国民党の増加と民進党の減少に相関関係が見られるが、台北市では国民党はほぼ横ばいで、むしろ民進党の減少とその他の増加とに相関関係が見られる。


  台北市で二大政党以外に当選したその他の内訳をみると、無所属の当選者が7人、時代力量が3人、新党(国民党の統一派が離党して結成)が2人、親民党(国民党の宋楚瑜系が離党して結成)が2人、社会民主党が1人となっている。新党や親民党は国民党の立場に近い。他方で、時代力量(ひまわり学生運動の流れをくみ、2015年1月に成立、従って前回の九合一選挙の時点ではまだ存在せず)や社会民主党は民進党の支持層に近く、民進党の議席減少分の一部はこれらの政党にまわったとも考えられる。


  こうした傾向を考えると、第一に、台北市のような都市部では小政党から立候補しても一定の支持を集めやすく、前回は民進党に投票しつつも今回は批判的になった人々の受け皿として機能したのではないか? 他方で、新北市や高雄市では第三党派的な候補者が選択肢として登場しなかったので、民進党への批判に転じた有権者の票が、対立政党としての国民党にまわったのではないか? 高雄市に関しては、韓國瑜現象との連動関係も見られると言えよう。


  桃園市、台中市、台南市では国民党微増、民進党微減の傾向が見られ、微妙な増減が見られつつも横ばいに近いと言える。これらの地域において国民党と民進党の議席配分にもたらされた変化はそれほど大きくはない。田舎を多く抱えている地域として考えれば、地縁的な関係で議員が当選していると考えていいのかもしれない。


  なお、私自身が住んでいる台南市第七選挙区(永康区)に関して言うと、ここはもともと農村地帯であったが、台湾鉄道の台南駅、大橋駅、永康駅のそれぞれから近いため宅地開発が進んでおり、農村部と都市部とがグラデーションを成すように連続している地域である。域内に軍関係施設があった関係で藍系も比較的強い。ここの割当は7議席で、内訳は国民党2人、民進党2人、台湾団結連盟1人(ただし、議会では民進党と統一会派を組む)、時代力量1人、無所属1人(民進党、国民党の両方に顔がきく地元密着型古株議員)となっている。8位、9位で競り負けたのはいずれも民進党候補者であった。ここで注目されるのは、時代力量から立候補した26歳新人女性(成功大学大学院生)が当選し、その割を食って民進党候補が落選したことである。台南でも都市部的地域では第三政党が進出し得るという現象を確認できる。


  以上、九合一選挙について六大直轄市の選挙結果に注目しながら、前回2014年と今回2018年とを比較してみたが、次のことが言えるだろう。第一に、蔡英文政権への不満が鬱積しているのは確かで、それが民進党の惨敗として示された。第二に、だからと言って、国民党が積極的に支持されているとも言えない。柯文哲の台北市長再選、台南市長選挙において民進党が辛勝したものの無所属候補が善戦、都市部の市議会選挙で第三党派の進出が見られる、といった状況を考えると、民進党・国民党の双方に飽き足らず、第三勢力を志向する投票行動がむしろ存在感を増している。第三に、韓國瑜は国民党の候補者である一方で、私はむしろその非主流派意識に注目したい。韓國瑜現象については、他の地域では第三勢力志向として表われた動向の代替現象として浮動票のスイングが起きたと私は捉えている。ただし、これについては具体的な投票行動分析による裏付けが必要なので、あくまでも思いつきの域を出ない。


  前回と今回とでは、選挙結果のふれ幅があまりにも極端であることに私は驚いたが、こうした傾向が今後も台湾の選挙の特徴として続くのだろうか。だとすれば、今回、民進党は惨敗したが、そう遠からぬうちに国民党も同じ運命に見舞われることもまた想像に難くない。実際のところ、前回、民進党が勝利できたのは、反国民党気運に乗っかることができたからであった。今回に関しても、国民党自体に何か支持を引き寄せる内在的魅力があるかと言えば、ちょっと思い当たらない。政権や政党自体の政策的魅力ではなく、むしろ相手政党への批判に乗っかって票を稼ぐという傾向はあまり健全とは言い難い。民主政治がある種の成熟を見せて、選挙制度そのものが常態化して特別なものとは思われなくなった。韓國瑜現象からは、政策の具体的内容よりも、今現在のものではない何か、より目立つもの、より刺激的なものを志向する形で浮動票が現われている状況が見えるのかもしれない。


  今回選挙の特徴は韓國瑜現象にあるが、これは韓國瑜個人の非主流派的存在感がタレント的に受けたものである。国民党を率いる呉敦義主席は地味であるため、今後、国民党は韓國瑜を大看板として前に出していく必要があろう。そうなると、国民党内既存エリート層との関係はどうなるのか? 党内が主導権争いで混乱するのではないか? 実は国民党自身もスター政治家的人材に乏しい状況にあるため、安閑とはしていられないのである。


  選挙結果の振れ幅の極端な大きさが台湾の選挙の特徴として定着するとするなら、そのスイングボードの構造的要因はどうなっているのか? これが台湾政治に関して私がいま一番関心を持っている問題である。私は都市部における第三勢力志向に注目したけれど、本当にそうした浮動票的階層が存在しているのか? それとも、組織の寝返り的現象があって、それが投票結果につながっているのか? このあたり、やはり投票行動分析の結果を待たないといけないが、私は方法論も資料も持ち合わせていないので、専門家の分析に期待したい。

   私のフェイスブックの知り合い関係の半分以上が台湾人で、またラインも使用可能だが台湾でしか使っていない。SNSという公開情報とクローズドな人間関係とが混ぜ合わさったネット環境の中、今回の九合一選挙及び公投(国民投票)に際して、台湾の知人の中には積極的に政治的情報を発信している人も見かけるので、ちょっと思ったことをメモしておく。


  かつて国民党が地方選挙で盤石であった理由の一つとして「買票」(選挙買収)が挙げられる。台湾の政治学系学術誌をパラパラみていても金権政治に関する分析が多々見られ、それだけ深刻な問題として受け止められていたことが分かる。ただ、台湾社会も成熟してきた近年において買票の有効性は薄れつつあり、それが国民党の凋落した要因の一つだったと言っても間違いではないだろう。買票の有効性の低下にも色々な背景があるが、端的に分かりやすいのは政権転落によって利益誘導のための政治資源動員が難しくなったということが挙げられるが、そればかりでなく地域社会における人間関係の変化(都市化の拡大)、政治意識の向上など様々な要因が考えられる。


  買票は候補者や政党の手足とって地域社会において票の取りまとめを行う「椿腳」という存在がカギとなる。彼らを媒介として金銭が分配され、行き渡ることにより集票効果を期待していた(「椿腳」の役割については、王金壽,〈重返風芒縣:國民黨選舉機器的成功與失敗〉[《台灣政治學刊》,第八卷第一期,2004年6月,頁99-146]を参照した)。


  もちろん、経済的利益誘導の重要な対象は大人数の票をまとめることのできる地域社会や職場での有力者であり、末端の個々人に行き渡る金額なんて多寡の知れたものだろう。言い換えると、金銭的利益そのもので買収したというよりも、金銭的やり取りを潤滑油として、地域社会における「椿腳」の人間関係を系統的に動員していくという選挙行動が買票の背景として考えられる。


  こうした「椿腳」の人間関係を通した買票行動は、人間関係の濃密な田舎の地域社会において顕著に見られ、逆に都市部では少ない。従って、近年における都市化の拡大(単に地域的な拡大というだけではなく、地域社会においても個人主義的なライフスタイルが広まっている趨勢も含めている)、一般的なレベルでの政治意識の多様化(政府系・国民党系企業の内部であっても職場を通した政治的締め付けは以前より難しくなっているだろう)、法的な取締りの強化等によって、難しくなっている。


  私がちょっと興味を持っている論点は、SNSが意外とこの「椿腳」の人間関係を通した買票行動の代替的な役割を果たしているのではないか、ということである。SNSのクローズド(≒濃密な)人間関係において、「金」ではなく、「情報」を媒介として、一定の系統的な選挙動員が事実上行われているのではないか。それが実効性を持っているかどうかは別として。


  私のフェイスブックやラインのクローズドな関係の中に見える一部の台湾の知人(緑も藍も両方いる)の書き込みやメッセージを見ていると、特定の候補者への投票呼びかけや、国民投票各テーマへの同意・不同意のリストが出回っているのだが、中にはきれいに図案化されているものもあり、また受け売り的な文言が用いられたりもしているので、一定の頒布力を持った組織の発信したものが転送されているのであろう。言い換えると、その転送者は本人が自覚しているかどうかはともかくとして、ネットにおいて上記の「椿腳」と同様の役割を果たしている。


  なお、今回は候補者を選ぶ九合一選挙と、提起テーマへの同意・不同意を問う公投(国民投票)とが同時に行われる。国民投票テーマには、例えば「婚姻平権(婚姻の平等)」のように、同一政党支持者の間でも賛否が分かれるテーマも含まれている。私がここで言うネット「椿腳」の中には、九合一選挙での投票すべき候補(政党色が強い)と、国民投票(とりわけ「婚姻平権」問題であり、政党とは別次元の政治的傾向を帯びる)での同意・不同意をセットにして投票呼びかけをしている人も見かけられる。つまり、ネット「椿腳」自身が政党色を持ちつつ、政党以外の政治要因も加味したアジェンダの組み合わせを行っており、それが何らかの影響力を持つとしたら、政治過程論において議論すべき問題となるだろう。


  ネット「椿腳」は金ではなく情報をばらまいているだけだから違法性はない。ただ、台湾社会におけるSNSの普及度の高さを考えると(台湾では高齢者も使いこなしている)、影響は非常に大きい。台湾ではネットで拡散しているニュースがその根拠が曖昧なまま新聞媒体が報道してしまうことすらあり、情報の即時性の一方で、フェイク・ニュースが拡散しやすい危険を抱えている。例えば、先頃、台湾の駐大阪代表(総領事に総統)がフェイク・ニュースに追い詰められて自殺してしまった事件も記憶に新しい。


  選挙活動において手足となって動くネット「椿腳」が、真偽不明だが候補者にとって有利な情報を積極的に拡散し、場合によっては自ら捏造することも考えられ、それがさらに下位階層のネット「椿腳」の人間関係を通して系統的に拡散していく。実際のところ、私自身が台湾で目撃している範囲内でも言えることだが、フェイスブックやラインのクローズドなグループ(家族、友人、知人関係)において日常的なたわいない話題のやり取りをしている中に政治的情報も気軽な感じに混ざっている。つまり、下位階層のネット「椿腳」個人の持つ親密な人間関係を通して様々な情報が拡散しやすいネット環境が実際に出来上がっている。


  こうしたネット環境を系統化できれば、選挙活動にも十分活用できる。そして、情報を受ける方は自らの投票行動に影響を及ぼされている状況に必ずしも自覚的とは限らない。 こうした形で系統的なSNS情報拡散ルートが確立されれば、その発起点に何らかのインプットを行うことで、一定の選挙動員が可能となる。クローズドなSNS関係を経由して拡散している情報であれば、それは「見えない輿論」としても機能することになり、それが表面化すれば、「これが今のトレンドだ」という感じにマスコミも飛びつくであろう。


  かつて盛んであった買票では、人間関係の濃密な地域社会において「椿腳」個々の人間関係を通して投票依頼行動(金銭の受け渡しを含む)が行われていた。現代の都市化によって地縁的人間関係は希薄化しても、人間関係そのものがなくなったわけではもちろんなく、地縁とは異なる形で人間関係が再編されたと言える。SNSにおけるクローズド(≒濃密)な人間関係は、田舎の地縁的人間関係と代替的な位置付けを持ち、ネット「椿腳」はそこにおいて金ではなく情報を通してかつてと同様の投票依頼行動を行っているのが現代的現象と言える。


  何度も言うが、こうした現象によってネット・リテラシーの低い人々はフェイク・ニュースに振り回される可能性が高い。台湾におけるネット普及、とりわけSNS多用の状況は、フェイク・ニュースに親和的な政治環境を用意していると言える。 それは選挙動員にあたって極めて有効な手段でもある。

このページのトップヘ